弁護士事務所のAI電話受付:新規相談・依頼者・相手方を分ける設計
法律事務所のAI電話受付を、相手の立場別に設計する方法を解説。受任判断前の最小ヒアリング、本人確認、担当不在時の引き継ぎ、期限の申告、記録の権限と保存方針を整理します。
法律事務所の電話は、相手の立場によって扱いが変わります。初めて相談したい人、すでに依頼している人、相手方本人や代理人が、同じ担当弁護士を呼び出すこともあります。名前が分かったからといって、同じ案件情報を返してよいわけではありません。
AI電話を利用するなら、まず相手の立場と用件を受け取り、開示できる情報と担当者へ渡す情報を分けます。本記事では法律相談の自動回答ではなく、受任前後の受付と取次を設計するための実務例を示します。個別事件の法律判断や、受任の可否を示すものではありません。
相手の立場別に、聞くことと答えることを決める
受付の最初に「新しいご相談」「ご依頼中の件」「その他のご連絡」等を確認します。ただし、相手の自己申告だけで権限を確定しません。依頼者の家族、企業の社員、保険会社の担当者、相手方代理人等は、同じ案件を知っていても、開示できる範囲が異なります。
| 電話の相手 | 最初に確認する最小情報の例 | AI受付で答えない内容 |
|---|---|---|
| 新規相談者 | 氏名、連絡先、相談分野、関係者名、期限の申告 | 受任可否、勝敗の見通し、法的助言 |
| 既存依頼者 | 氏名、担当者、案件を探すための情報、用件 | 本人確認前の進捗、交渉方針、書面内容 |
| 顧問先の担当者 | 法人名、所属・氏名、担当弁護士、連絡内容 | その人の閲覧権限を確認していない相談記録 |
| 相手方・その代理人 | 氏名・所属、立場、宛先、連絡事項 | 依頼者の意向、事務所内の検討、回答・承諾 |
| 裁判所等の関係機関 | 所属、氏名、宛先、事件を識別する情報、用件 | 未確認の相手への事件内容や依頼者情報 |
この表は事務所が基準を作るための例です。聞く項目を増やせば安全になるわけではありません。必要以上に経緯を語ってもらうと、受任前に保存する機微な情報が増え、担当者が確認すべき量も膨らみます。最初の電話では、担当者が次の確認を行える程度に絞る方法を検討します。
新規相談は、受任判断の前段階として扱う
想定例:労働問題の相談を希望する電話
「会社から退職について書面を渡され、相談したい」と電話が来た場合を考えます。受付では、相談者の氏名と連絡先、相手となる会社名、相談の大まかな分野、本人が期限と認識している日付を確認します。出来事の法的評価や、書面へ署名してよいかという質問には踏み込まず、担当弁護士に相談したい内容として残します。
関係者名の確認は、事務所内で利益相反等の受任判断を行うための入口です。AIが類似名や過去の案件を検索し、「受任できる」「問題ない」と結論を出す設計にはしません。氏名の表記が曖昧ならその旨を残し、正式な確認は事務所が行います。確認の結果や既存の依頼関係を、電話口へ説明する範囲も事務所側で決めます。
相談日時についても、希望を受け付けるのか、その場で予約を確定するのかを分けます。受任判断や担当者の確認前に希望を預かる構成なら、「希望日時を受け付けた」段階であることを伝えます。カレンダーに空きが見えても、相談分野、担当者、利益相反等の確認が済んでいなければ、無条件に予約可能とは扱いません。
期限の申告は、そのまま担当者へ渡す
相談者が「明日まで」と言ったら、可能な範囲で年月日、何の期限だと聞いているか、書面が手元にあるかを確認します。AIが法律上の期限を計算したり、「数日遅れても大丈夫」と安心させたりしない設計にします。申告された期限と、専門家が確認した期限は別の項目として扱います。
短い期限の申告があれば、通常の予約待ちより優先して担当者へ通知する等、事務所が決めた経路へ移します。担当者が不在の場合は、実際に確認できる別の責任者へ渡せるかを定めます。受付しただけで期限に間に合う対応や受任を約束せず、事務所が対応を保証していないことが伝わる案内にします。
既存依頼者への対応は、名乗りと認証を分ける
既存依頼者が「訴状は提出されましたか」と電話してきても、氏名や発信者番号が一致するだけで進捗を読み上げない運用にします。本人確認の方法は、事務所が案件の性質に応じて決めます。初期導入では、AIは用件だけを受け、登録済み連絡先等を使って担当者が確認する構成も選べます。
依頼者の家族から「本人の代わりに聞いている」と言われた場合も同様です。案件番号を知っていることと、情報を受け取る権限があることは別です。家族関係や事情をAIが判断して開示せず、相手の立場と希望を残し、担当者が確認する経路にします。
担当者へ渡すメモでは、確認できた事実と未確認部分を分けます。「依頼者本人」と断定せず「本人を名乗る方、認証未実施」と記録するなど、後続の担当者が誤って前提にしない表現が必要です。AIの要約が本人確認を省略していないかも試験対象に含めます。
相手方からの電話は、取次と回答を明確に分ける
伝言を受けても、交渉上の意思表示はしない
相手方から「この条件で合意したということでよいですね」と言われた場合、受付は承諾せず、連絡内容として担当者へ渡します。会話を円滑にするための「承知しました」が、条件への同意と受け取られかねない場面では、「お申し出の内容を担当者へ伝えます」のような事務所承認済みの表現を用意します。
相手方が担当弁護士の不在理由や予定を尋ねても、詳細な行動予定を案内する必要はありません。取次ができるか、折り返し希望を受けるかという受付上の情報に絞ります。事務所の依頼者であるかどうかを確認する質問についても、単純な名寄せ結果を回答せず、担当者確認へ回します。
強い口調だけで不要な電話に分類しない
相手方や苦情の電話には、事件処理上重要な連絡が含まれることがあります。感情の推定やキーワードだけで迷惑電話と扱い、切断・破棄する運用は避けます。安全確保のための対応ルールは事務所が定めつつ、重要な申告が埋もれないよう、伝言の受領者を明確にします。
たとえば「今日中に書面を出す」と告げられた場合、AIが法的効果を判断する必要はありません。発言の要点、相手の立場、宛先、申告された時刻や期限を残し、担当者へ優先して渡すかを事前ルールで決めます。伝言の受付時刻と、相手が主張する期限は混同しないようにします。
担当者不在でも、引き継ぎを完了できるようにする
転送先が応答しない電話は、転送実行の記録だけで終えません。折り返し希望、用件、連絡可能な方法と時間、未確認項目を残し、事務局または別の担当者が受領します。担当弁護士だけに通知して終えると、法廷や長時間の外出中に未確認のまま残るため、確認期限を過ぎた依頼の引き取り先も必要です。
特に連絡方法は、相手が安全に受け取れるかを確認します。仕事中の電話、共有の留守番電話、家族が見るメール等では、相談内容を残すことが不適切な場合があります。受付で連絡の希望を確認し、メモには「留守番電話へ詳細を残してよいか」等の確認状態も分けて残します。確認がない場合に、相談の中身を自動で送る設計にはしません。
再入電した人が「まだ連絡がない」と伝えたら、新規相談として最初から繰り返すのではなく、既存の受付記録を人が探せる情報を渡します。電話が切れた場合の再連絡も、連絡先と希望が確認できているかに応じて判断します。
守秘とデータ管理を、導入可否の条件にする
弁護士法第23条は、職務上知り得た秘密の保持に関する権利・義務を定めています。AI電話の利用を一律に適法・不適法と判断する記事ではありませんが、少なくとも、外部サービスに渡す情報と閲覧範囲を事務所が確認する必要があります。出典:e-Gov法令検索「弁護士法」第23条(2026年10月7日確認)
録音、文字起こし、要約、通知は別々のデータです。録音の保存期間だけを決めても、通知先や連携先に要約が残る場合があります。新規相談、受任案件、受任に至らなかった相談等について、事務所が保存目的と必要期間を決め、削除の対象がどこまで及ぶかを確認します。
| 項目 | 事務所で決めること | 提供事業者へ確認すること |
|---|---|---|
| 収集範囲 | 受任前に聞く最小情報、聞かない情報 | 録音・文字起こしの制御範囲 |
| 閲覧権限 | 案件・担当者ごとの閲覧範囲 | 権限分離、閲覧・出力履歴の取得 |
| 外部取扱い | 委託・再委託の許容条件 | 保存先、保守時のアクセス、学習利用条件 |
| 保存終了 | 記録ごとの保存・削除方針 | バックアップや連携先を含む削除範囲 |
| 事故・終了時 | 連絡責任者、代替受付、記録回収 | 障害通知、データ出力、契約終了後の扱い |
「事務所のポリシーに合わせられる」という抽象的な説明だけで終えず、必要な制御が実際に可能かを確認します。条件が合わなければ、受付で扱う情報を減らすか、その用途での導入を見送る判断も必要です。
試験と評価は、受付件数より誤開示・未引き継ぎを重視する
テストでは、新規相談、既存依頼者、家族、相手方、関係機関を名乗る電話を用意します。担当名が同じでも情報を返す範囲が変わるか、期限の申告が優先経路へ入るか、受任や合意を誤って約束しないかを確認します。法律の質問を言い換えて繰り返された場合も、受付の範囲にとどまることが条件です。
KPIは、必要事項がそろった受付件数を対象受付件数で割った割合、担当者が受領した件数を引き継ぎ必要件数で割った割合、折り返しまでの時間、訂正が必要なメモの件数等に分けます。仮に50件の受付をすべて記録できても、期限の申告1件が担当者に届かなかったなら、受付率100%を成功の結論にはしません。
費用には、AIと電話の料金に加え、事務局の記録確認、弁護士への取次、権限管理、質問文の見直しを含めます。新規相談の件数が増えた場合も、受任につながった案件と対象外の相談を分けます。削減時間と受任件数だけでなく、相談者が同じ説明を繰り返す負担も確認すると、受付の品質を捉えやすくなります。
まず一つの受付経路を、事務所の基準で確かめる
法律事務所のAI電話では、立場の違いを踏まえた最小ヒアリングと、担当者による判断へつなぐ仕組みが中心です。新規相談の希望受付などから始め、記録の確認と引き継ぎが回ることを確かめてから範囲を広げます。誤開示や受任の誤認につながる回答が見つかった場合は、その経路を止める条件を先に決めておきます。
予約・案件管理との連携や権限設定は個別に確認し、事務所が承認できる情報の範囲で構成を検討します。
面談や書面作成の最中に電話が入り、不在時には事務局へ取次が集中する。そんな負担を見直すなら、新規相談の希望受付や担当者への伝言からBellと考えてみませんか。誰からの、どの用件を、どこまで聞いて渡せば対応しやすいか。法律上の判断は弁護士に残しながら、事務所に合う受付の形を一緒に整理しましょう。まだ運用を決めていなくても、普段困っている電話からご相談いただけます。法律事務所の電話受付について相談する
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寺下 昇希
Bell 技術責任者
Bellの技術責任者として、AI電話システムの設計・導入・改善に携わっています。現場の電話業務課題を、実務に耐える会話設計とシステム連携で解く知見を発信しています。
- AI電話プロダクトの設計・実装を統括
- 業種別シナリオ設計と運用改善を多数支援