百貨店のカスハラ対策とボイスAI:Bellを検討する前に整えたい返品・売場取次の運用
百貨店の返品、ギフト配送、売場・テナントへの取次を題材に、従業員を守る電話受付を設計。購入情報が不足する場合や返金判断の有人移管、AI導入時の確認項目を解説します。
百貨店の代表電話には、売場を探す問い合わせと、購入品に関する相談と、接客への苦情が同じ番号に入ります。しかも、百貨店の直営売場とテナント、催事の出店者では、購入履歴の確認方法も返品の判断者も異なります。代表窓口が一律に回答しようとすると、約束できないことを約束したり、売場をたらい回しにしたりする原因になります。
ボイスAIによるカスハラ対策を考える際も、この境界を先に整理する必要があります。売場案内や用件の聞き取りをAIに任せられても、個別の返金判断や、威圧的な言動が続く場面の対応方針は、責任者が担う体制が必要です。本記事では、百貨店の総合案内・お客様相談室・売場責任者に向けて、受付から案件の解決確認までを設計します。
最初に分けるのは、顧客の口調より「何を確認する電話か」
返品を求めている、同じ件で再度電話した、責任者との会話を希望しているという事情だけでは、カスタマーハラスメントとは判断できません。前回の案内が間違っていたり、返答が遅れていたりする可能性もあるからです。相談内容の確認と、従業員を傷つける言動への対応を別々に扱います。
たとえば「贈答品が壊れて届いたので、すぐ交換してほしい」という電話では、配送時の破損や交換を希望する時期を含めて調べる必要があります。語気の強さから通常受付の優先度を下げると、百貨店側の問題を見落とします。一方、事実確認を進める間も、担当者への人格攻撃を受け続ける必要はありません。責任者が会話を引き継ぐ基準を用意します。
厚生労働省の2026年のカスタマーハラスメント対策指針も、正当な申入れとカスタマーハラスメントを区別し、経緯や状況を考慮する考え方を示しています。具体的な対応制限は、最新の指針や自社方針を確認して責任部門と定めてください。ここでは業務設計上の例を扱い、個別事案の法的判断は行いません。
売場・テナント・お客様相談室の担当範囲を可視化する
AIに売場名の辞書を渡すだけでは、適切な取次は実現しません。同じブランドが常設売場と期間限定の催事に出店していたり、売場の電話が営業時間中でも接客のため応答できなかったりします。店舗名、階、売場、運営主体、対応できる用件、受付時間、代替窓口を一組で管理します。
| 相談の種類 | 入口で確認すること | 主な引き継ぎ先と判断の境界 |
|---|---|---|
| 売場・催事の案内 | 来店予定店舗、ブランドや商品、希望日 | 最新の館内情報で案内。終了した催事は管理担当へ確認 |
| 返品・交換 | 購入場所、時期、商品、困っている内容 | 購入売場または所管窓口が条件を確認。受付で返金を確約しない |
| ギフト配送の不具合 | 依頼店舗、注文を特定できる情報、届け先での状況 | 配送担当が履歴と対応策を確認。贈り主・受取人の情報開示は別途確認 |
| 接客への苦情 | 店舗・売場・日時、具体的な出来事、希望 | 売場責任者またはお客様相談室。従業員の私的情報は渡さない |
| 継続中の案件 | 受付番号、前回の連絡、約束された次の対応 | 案件の担当者へ。新規相談として最初から聞き直さない |
この表は運用例です。販売主体や契約関係によって責任範囲は変わるため、代表電話が「当店の商品ではないので対応できない」と機械的に切り分けるのは避けます。窓口が違う場合でも、どこまで情報を引き継げるかを関係者で決め、顧客が次に何をすればよいかを伝えます。
催事やフロア改装の情報は更新責任者を決めておきます。古い内線番号への転送は、顧客の不満と売場の負担を同時に増やします。更新日が確認できない案内は回答を控え、総合案内に戻すなど、情報の鮮度が不足した際の経路も必要です。
想定例:購入売場が分からないギフトの返品相談
以下は設計用の架空の会話です。百貨店の実績や、Bellが標準機能だけで実行できることを示す事例ではありません。電話した人は贈答品の受取人で、レシートを持っておらず、交換を希望しているとします。
顧客:「こちらでもらったバッグの金具が外れていました。交換してほしいのですが、売場は分かりません」
受付:「金具が外れていたのですね。確認する窓口をお調べします。ブランド名や、箱に記載された店舗名はお分かりになりますか」
顧客:「ブランドは分かります。レシートはありません。贈った人には連絡したくないです」
受付:「レシートがないことと、贈り主への連絡を希望されないことを担当へ伝えます。現時点では交換できるかお約束できませんが、確認方法をご案内できる担当におつなぎします」
ここでの目的は、購入証明がないことを理由に受付を止めず、できる範囲の情報で所管窓口へ渡すことです。AIに購入履歴へのアクセスがあったとしても、贈り主の氏名や住所を受取人に開示してよいとは限りません。誰にどの情報を伝えられるかは、照会とは別の確認です。
引き継ぎ後、売場担当者は商品の状態、販売主体、購入確認の方法を調べ、交換などの選択肢を説明します。総合案内の記録には「交換希望を受付」「担当売場へ引き継ぎ」「可否確認中」を分けて残します。交換を希望する電話が終わっただけで「交換完了」にしてはいけません。
売場が不通だった場合の会話も用意する
想定どおり売場につながらない場合、AIが何度も同じ内線へ転送すると、顧客は電話の入口へ戻され続けます。店舗の有人窓口へ戻すのか、折り返しを受け付けるのか、現実に運用できる方法を選びます。
受付:「現在、売場担当が電話に出られません。内容をお預かりし、担当から連絡する方法をご案内できます。ご連絡先と、ご都合のよい時間帯を伺ってもよろしいでしょうか」
折り返し時刻を確約できない場合は、それも説明します。売場側では依頼を受け取った人を記録し、未受領ならお客様相談室などの代替担当が追えるようにします。顧客に伝えるのは「担当へ通知しました」だけでなく、未回答の場合に問い合わせる窓口や受付番号です。
カスハラへの対応と、返品判断を混ぜない
百貨店の苦情では、「すぐ返金してくれれば電話を終える」という要求が出る場合があります。一次受付の担当者が、その場を収めるために権限を超えた約束をしないようにします。同時に、言動に問題があったことだけを理由に、商品不具合の調査を省略しない運用にします。
責任者への移管は、時間だけで一律に決めるより、受付担当者の権限を超えた交渉、個人情報の要求、具体的な威嚇、既に説明した内容への対応方針が必要な場合など、行動と判断の種類で整理します。長い通話には、聞こえにくさや事情の複雑さが原因の場合もあるためです。
会話例としては、「商品についてのご相談は確認を続けます。従業員個人への発言が続いているため、責任者に代わります」と、扱う相談と対応方法を伝えます。終話や来店時の警備対応は、店舗の承認済み手順に沿って責任者が判断します。AIの感情スコアだけで、返金の可否や顧客との取引を決める設計にはしません。
通話後の従業員支援も、お客様相談室へ案件を渡して終わりにはしません。管理者が状況を確認し、続けて受電するか、いったん別の業務へ移るかを相談します。暴言を含む録音を研修で使う際は、本人への配慮と必要性を確認し、広く再生して負担を重ねないようにします。
Bellを検討する際は、館内の実データで動作を確かめる
Bellを含むAI電話の比較では、製品の紹介文だけで「カスハラ対策ができる」と判断せず、百貨店の運用に必要な動作を分けて確認します。営業時間案内、購入情報の聞き取り、担当者への転送、通話記録の作成は、それぞれ別の確認項目です。
特に、感情解析、自動警告、通話の自動終了、個人情報の自動マスキング、テナントのシステム連携は、利用できる機能・契約・構成を確認する必要があります。本記事は、これらをBellの提供済み機能として保証するものではありません。できない処理を人がどの画面や手順で補うかまで、検証結果に残してください。
試験には、似たブランド名、閉店した催事、ギフトの受取人、購入証明がない返品、途中で接客苦情に変わる電話を含めます。正常な会話だけでなく、聞き直しても情報がそろわない場合に、人へ進めるかが重要です。テナント側にも引き継ぎ内容を読んでもらい、受け取る側で必要事項が不足していないか確認します。
小さく導入し、売場へ残る仕事まで測る
最初は、一店舗の館内案内と折り返し受付など、情報管理者と担当窓口が明確な範囲から始めます。返品可否の自動判定を同時に始める必要はありません。受付と引き継ぎが安定してから、連携や対象売場を広げる方が、誤案内の原因を追いやすくなります。
| 評価する点 | 記録する内容 | 結果から見直すこと |
|---|---|---|
| 売場への到達 | 誤転送、転送不通、総合案内への戻り | 売場辞書、受付時間、代替窓口 |
| 案件の継続 | 折り返し未受領、期限超過、顧客からの再連絡 | 案件担当者と未対応の確認方法 |
| 受付内容の品質 | 購入情報の不足、約束の誤記、聞き直し | 質問の順番、要約の確認項目 |
| 従業員の対応負荷 | 通話だけでなく照会・記録・折り返しに使う時間 | 自動化の範囲と有人体制 |
催事や贈答シーズンでは電話の構成が変わるため、単純な前月比較だけで効果を決めないでください。問い合わせ分類と時間帯をそろえ、売場側の作業が増えていないかを確認します。「警告した件数が増えた」こと自体を成果にせず、正当な相談が誤って止められていないかも責任者が見直します。
よくある質問
返品ルールを登録すれば、AIが返金を決められますか?
一般的なルールの案内と、個別商品の返金可否は別です。購入先、状態、販売時の説明、テナントの権限など確認すべき条件があります。まずは必要情報の受付までに区切り、例外を判断できる担当者へ移す設計が適しています。
感情分析は導入の必須条件ですか?
必須とは限りません。売場への誤転送や未回答の折り返しが苦情の背景なら、まずその改善が必要です。分析を使う場合も、人による確認の補助として位置付け、声の大きさや話し方だけで対応を制限しないようにします。
どこまで記録を共有しますか?
全館・全テナントへ同じ録音を共有するのではなく、対応に必要な担当者と項目を定めます。ギフトの送り先や会員情報が含まれる場合は特に、利用目的、閲覧権限、保存期間、削除手順を運用前に確認してください。
百貨店の電話受付で大切なのは、売場へ速く転送することに加え、誰が次の判断を引き受けたかを明らかにすることです。共通の管理者レビューは企業向けの実装ガイド、修理・メーカー連絡を中心とする運用は家電量販店向けガイドで補足しています。
参考:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年10月7日確認)。
売場へつなぐ電話から、現場を支える受付へ
売場を探す取次が続き、返品やギフトの相談では同じ説明を何度も聞き直す。総合案内にも売場にも負担が残っているなら、Bellを取り入れた受付の流れを一緒に考えてみませんか。
館内案内や購入情報の聞き取りと、責任者が判断する相談を分けることで、最初に任せられそうな電話を整理できます。まだ全館での導入を決める段階でなくても、「繁忙期の取次から見直したい」というご相談をBellへお寄せください。
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寺下 昇希
Bell 技術責任者
Bellの技術責任者として、AI電話システムの設計・導入・改善に携わっています。現場の電話業務課題を、実務に耐える会話設計とシステム連携で解く知見を発信しています。
- AI電話プロダクトの設計・実装を統括
- 業種別シナリオ設計と運用改善を多数支援